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日本経済のダイナミズムを取り戻すために

牛尾治朗 (ウシオ電機会長、経済財政諮問会議民間議員)


オリジナルの英文:
"To Regain Dynamism of Japanese Economy"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030409_ushio_regain/


要 旨


デフレ下での経営のあり方
2003年の日本の景気見通しは、リストラや不良債権処理の効果が出てくるので、民間の悲観的な見方ほどは悪くないのではないか。私としては、2003年度の実質成長率は、政府見通しの0.6パーセントよりも高く、1.0〜1.5パーセントにはなるのではないかと見ている。


ただ、具体的にどの業種が良くなって、どの業種が悪くなるとは言いにくい。すべての業種で二極化が進み、業績の良い企業と悪い企業が出てくる。しかし、デフレの流れはそう容易には変わらない。そこでインフレ時代の経営のやり方をしていてはダメだが、デフレ時代に応じて、物価の下落を考慮したやり方をやれば利益が上がる。


デフレの時代は、モノを所有することはもはやメリットが少なくなり、利用することがより重要となる。地価は運用利回りで決まるようになる。オフィスも工場も所有するよりは借りた方がいい。従業員も人材派遣を利用すべき。このようにデフレ時代に応じた経営手法を用いれば生き残りは可能だ。さらに生産性と競争力を高めて、実質的な成長率と利益を重視すべきだ。


創造力と企画力が重要
生産性と競争力を高めるためには、技術開発力と情報力の強化および企画発想力が大事である。明日のニーズとウオンツに対して売ることを考えなければならない。ニーズは安い物を求めるが、ウオンツは値段にこだわらない。例えば、ハンカチは10枚1,000円で買うが、スカーフは1枚15,000円のエルメスを買おうとする。「明日のウオンツ」を創り上げる源泉が創造力である。


グローバリゼーションはますます日常化し、フリー、フェア、オープンというアングロサクソン型の市場原理が一般化する。ITはリアルタイムで大量情報を世界中一気に伝達するから、ITを使う企業と使わない企業とでは歴然とした差が出る。


ただし、このようなグローバル化の時代だからこそ、日本の「現場主義」や「完璧主義」や「集団主義」など日本の美点が強い力になる。メイド・イン・ジャパンのブランド価値も高く、戦後50年の蓄積は大きな資産といえる。足りないのが、経営者のやる気ではないか。ただし、現在の経済の調整期間が終われば、新しいリーダーによる新たな成長の兆しが見えてくるであろう。注意すべきは、伸びるビジネスは新しい形をとり、従来の形のままでは伸びずに衰退するということである。


この点について、1980年代の米国で、日本から学ぶために作られた「ヤング・コミッティ」に模して、日本でも産業競争力会議が作られ、IT戦略会議、IT戦略本部と継承された。これが次の段階で「動け!日本」プロジェクトを立ち上げ、産学の共同作業を推進し、日本の製造業やサービス業で、特に健康・医療、環境、エネルギー、安全・安心、生活高度化、教育サービスの分野に関連する産業を活性化する試みとなっている。イノベーションがこれらの産業を活性化する上でカギであり、自然科学と技術の知識なしに今日のビジネスを論じられない時代になりつつある。


そもそも日本人は横並びでいることに安心してしまい、それが日本社会の多様化できない最大の原因になっている。特に、大企業はみんな同じような目標を立てて横並びで競争するから、独自の方向性で進むことができない。その例外が、ソニーやホンダ、またいくつかのベンチャービジネスである。最近では、大学の研究者が企業の社外重役になったり、あるいは行政に入って政策を担当するような人も増えている。このような人たちが、日本経済のダイナミズムを取り戻す上で要の役割を果たすのではないか。


規制緩和と税制改革
適切な政府の政策と改革も必要である。経済活性化は第1に民の経済活動を自由にすることだ。米国では宇宙開発と軍需関係以外は何をやってもいいが、日本では規制が多く、業界の商習慣もあって、多くの分野でビジネス活動を阻害している。例えば、外資系企業が進出しても、どこまでやっていいか調べるのが難しく困っている。


そこで政府の課題の第1は規制緩和で、民にできるものは民に任せ、「小さな政府」をつくることである。民の領域が広がれば、パブリックな精神を持つ人が民の指導者に求められる。英国で「パブリック・スクール」といえば、私立学校を意味する。パブリックな目的のために、民間人が学校をつくるからだ。民の主導国では民の主導者にこそパブリックな精神が求められる。


また、税金を安くすることも重要である。経済活性化のためには、特に民間の活動収益に対する減税が必要である。一般論として、税は広く薄くすべきで、間接税中心に向かうべきである。日本経団連が毎年消費税を1%ずつ上げることを提案しているが、その前に削減できる支出は削減して、政府を小さくしたい。


デフレに苦しんでいるのは日本だけではなく、世界的な傾向になりつつある。まだ少数意見だが、デフレ突入が一番早かった日本が最初にデフレから脱却する国になるという意見がある。もし経営のやり方を変えて、政府が適切な政策で経済を再活性化すれば、それが現実になるかもしれない。


経済が再活性化して、企業収益が上がればデフレは止まり、適正物価が回復する。2003年と2004年は回復調整期で、我慢の時である。今は売り上げより利益を出すことが大事である。この調整期に付加価値を高めて生き伸びた企業だけが、デフレが止まった後に大きな成功を手にするであろう。

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