銀行の実質国有化は単なる始点
池尾和人 (慶應義塾大学教授)
オリジナルの英文:
"Resona Bailout: Nationalization Is Only the Beginning"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030526_ikeo_resona/
要 旨
りそなグループへの公的資金注入による資本増強が決まったが、これは問題解決の始点に過ぎない。銀行が国の管理下に入るということは、その限りではより基本的な政策目標である金融再生とは正反対の事態である。また、弱体化した銀行を国有化するということは、いわば金食い虫の特殊法人を新設したということに過ぎず、このような事態を解消することが真の解決であるという政策展望を把握しておく必要がある。
銀行の建て直し策として、有能な人材に収益目標を与え、一定期間後にその評価を行い賞罰を加える、という方法が主張されたこともある。このような方式を採用すれば、国は単なる投資家として機能するのみであり、銀行業務に無知であっても良いというものである。しかしこのような議論は、そもそも資本主義の下での投資家の機能というものを否定してしまっている。
日本の銀行業については、その不振がもっぱら経営者の努力や能力不足に帰せられることが多いが、不振が銀行業全体に及んでいる以上、産業レベルでの問題を認識する必要がある。現在のオーバーバンキングの状況の中で、経営者さえしっかりすれば問題が解決すると考えるのは楽観的に過ぎるが、小泉首相以下、この種の認識に留まっているのではないかとの発言には危惧を覚える。
りそなには、今後国から専門特別チームが派遣され、その監督とチェックの下で業務が行われることになるが、銀行業務経験の無い官僚が監督を行えば、銀行の業績が劇的に改善するなどということは期待出来ず、民間からの人材も投入する必要があろう。今回の措置のそもそもの妥当性をはじめとして、真の解決に向けて当局が有効な措置をとって行くか、なお注視が必要である。
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