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凋落を止めるに十分でない日本の改革

ヒュー・コータッチ (元駐日英国大使)


オリジナルの英文:
"Change Hasn't Halted Decline"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030609_cortazzi_change/


要 旨


先日、訪日して、英国から見た日本経済とその回復について講演する機会があった。私が事前に準備した原稿は悲観的な内容になってしまった。英国内での日本経済に関する報道が陰気で沈鬱なものばかりであったため、自然とそうなったのである。原稿はそれに、日本人の自信喪失は行き過ぎているのではないかという個人的な意見を付け加えるものになった。

そして日本経済の回復は、政治改革の成否によるところが大きいという従来からの私の主張を繰り返すことにした。ここでいう改革とは、都市と農村部での票の配分を公平にし、金権政治を抑制し、実効的な対抗勢力を育成することにより、与党内部の派閥や利益共同体を弱体化させることである。

半世紀以上にわたり実質的に政権を維持してきた自由民主党は、一般的な意味での「自由」ではないし、本来的な意味での「民主」的な構造を成していない。多くの日本人が自民党に投票するのは、それの代わりがないからである。自民党は一定のイデオロギーに基づく政党ではなく、忠実であるべき対象は理念ではなく有力者であり、政治資金を集める能力が出世につながる組織である。

小泉総理が、自分は理念に忠実に行動し、そのためには自民党を崩壊させても構わないといかに強く主張しても、彼が本気であるようには私には見えない。

5月初め、久しぶりに日本に来て最初にしたことの一つは、壮大な開発事業である六本木ヒルズを訪ねたことであった。日本経済はデフレに支配され下降線をたどっていると言われているが、ここでは贅沢な専門店や高級レストランが店を連ねていた。高級レストランでは、何日もあるいは何週間も先にしか予約が取れないということであった。これは流石に誇張であるとしても、集まっていた大勢の人々を見る限り「不況」などという言葉とは縁がないようであった。

「高速」と名付けられた道路は相変わらず渋滞していたし、六本木の街は以前と同じように騒がしかった。しかし一見して昔と違う印象を受けたのは、客待ちをするタクシーの行列であり、一部に低料金のタクシーが走り回っていることであった。そして「百円ショップ」が多く見られたことは、日本の価格低下現象を示唆していた。

電子機器の価格は確かに下落した。ただしこれが競争激化によるものか、中国での低コスト生産によるものか、あるいは単に技術の進歩によるものか、私には確とは分からない。今回の訪日では一般食料品の買い物には出かけなかったが、垣間見た果物の値段はロンドンの二倍から三倍もしていた。この原因は果たして減少しつつある農業人口への援助のための農林水産省による時代遅れの保護主義か、既存の流通業者を保護するための無用な規制か、それとも食料に対する過剰な安全基準によるものか。おそらくこれらすべてが原因ではないだろうか。

もちろん、うわべの印象だけで物事が分かる訳ではない。そこでさらに人の話を聞いたり報道出版物を見たりして考えた結果、英国で描かれている日本に関する悲観的な見方に、私としてはやはり同意せざるを得なかった。小泉政権による規制緩和政策はあまりにも小規模かつ遅すぎた。利害関係を有する官僚や圧力団体は、郵政事業や特区の設置に見られるように、小泉政権が提案あるいは実行した改革の効果を最小限に留めることに成功したようである。一部の特殊な利益がいまだに国全体の利益に優先している。

成長の鈍化が与える心理影響が懸念される。「七五三」で祝福される子供の数も、出生率が1.32まで下落して、減少し続けている。急速に老齢化しつつあるにもかかわらず、いまだに移民の受け入れに消極的な日本にとって、この低い出生率は深刻である。新聞で読んだのだが、今やこの「七五三」という表現は若年労働者に関して用いられており、すなわち中卒は70%、高卒は50%、大卒は30%が三年以内に離職するという現象を指しているとのことである。

この離職率は英国では驚くべき数字ではない。しかし日本では大きな変化、おそらくは労働市場の自由化という変化が生じていることを表している。ただしこれは若年雇用の見通しが好ましい状況にあれば良い兆候であるが、実情は残念ながらそうではない。もちろん超長時間労働からの解放(そして過労死の減少)と余暇の増加は好ましいことであるが、「フリーター」現象は持続しており、労働倫理は低下している。

私は、日本を語る時にしばしば引用される言い回し、例えばフランスの諺「ものごとは色々と変化すればするほど、かえって全体は変わらないもの」というような冷めた見方を採るものではない。実際、日本では全ての分野にわたって大きな変化が起きているが、これは私が初めて日本に来た57年前と比較してというだけではなく、ここ10年程の間でも著しい。しかしながら、基本的な問題は、その変化が、日本の政治と経済を繁栄に導くのに十分な速度と程度であるかということであり、残念ながらその答えは「否」である。

金融機関における巨額の不良債権、地方のインフラ整備のための過剰投資、そして収益率の著しい低下(さらにその結果としての株価の下落)。これらの現象を前にして、私は日本が破綻してしまうとは思っていない。しかし日本の経済が現在の沈滞から早急に抜け出せるとも思わない。現在の様々な兆候から予測されるのは、持続するゆるやかな凋落である。

(日本語訳:浦部仁志)

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