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グローバル時代の『アジア』の再定義

行天豊雄 (国際通貨研究所理事長)


オリジナルの英文:
"What is 'Asia' from Global Perspectives?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030804_gyohten_what/


要 旨


アジア再定義の必要性

私たちはこれまで「アジア」という言葉を当然のことのように使ってきたが、最近グローバルな視点から「アジア」を再定義する必要が生じてきた。それは同時多発テロやイラク戦争の結果、米国はテロと戦うために覇権力を強める一方で、ヨーロッパはそれに反対する動きが目立っており、そのような米欧の対立に対してアジアは無関係ではいられなくなったことがある。実際に、アジアはAPECやASEMといった枠組みで米欧と関係を深めており、また安全保障面では北朝鮮問題、台湾海峡問題、さらに南アジアの核問題など、米欧を巻き込む問題が山積している。


このような事態にもかかわらず、アジアはグローバルな視点からまとまった地域になっているとは到底言えない。第一に、アジア諸国は過去の植民地化の影響で国家としての発展が遅れ、欧米諸国とは発展の形態を異にするので、国家間の協力関係が生まれにくい状況にあり、さらに中国の影響が大きく、中国の将来に関するシナリオによってアジアの姿が左右されるからでもある。


その結果、アジア人自身がアジアとは一体何かを定義できないでいる。その一方で、米国はこれから5年、10年は覇権的支配力を強めるであろうし、欧州はEUを25ヶ国に拡大することでその存在感を増すであろう。その一方で、アジアの概念はAPECやアジア太平洋地域といった言葉で薄められ、アジアの定義については依然としてはっきりしないままになっている。


中国覇権に対する懸念

最近ASEANに日本、中国、韓国を加えた「ASEANプラス3」という枠組みが生まれたが、これは日本のような立場からは、アジアを論じるための現実的な場として評価できる。しかしこれについても、いくつかの問題がある。第一は、オーストラリアやニュージーランドをどうするかという問題。第二はミャンマー、インド、パキスタンといった南アジアをどうするかという問題。さらにより根本的には、朝鮮半島の安全保障のような最近の重要問題を扱うのに不十分で、結局は米国やロシアの参加が必要となる点である。


しかしこのままでは、アジアはまとまりのない「星雲状態」を続け、結局は力を増している中国に望ましくない形でアジアを代表されてしまうのではないかという懸念が生じている。一般にアジア諸国の中国に対する気持ちには複雑なものがあるからである。


実際に、中国の経済発展に対する熱意とエネルギーは誰しも評価するものの、中国が将来アジアあるいは世界で果たそうとしている役割について、原則や哲学といったものがあるのかどうか不明である。中国がアジアや世界のリーダーとしてどのようなビジョンを持っているか分からず、しかも歴史的にみると覇権主義をとってきた中国に対する警戒は日本を含むアジアの国に共通に見られるところである。


アジアの中での日本の役割

いまやアジア人自身がアジアのグローバルな定義や役割を明確に考える時が来た。また日本もアジアの再定義において積極的な役割を果たすべき時が来たと言える。当面の日本の役割は、アジアや世界全体にとってプラスになるような形で中国との互恵的な関係を築くことである。中国は急速に軍事力や経済力を拡大しつつあるが、一方で、他の国が進んで中国を支持し従うような「ソフト・パワー」に欠けている。その部分では日本が果たせる役割は大きく、アジアを一国が垂直的に支配する体制ではなく、EUのように水平的に協力する関係を作り出す上で力を発揮できると思われる。


この点で、日本はもっと中国を真剣に考え、中国が急速にアジアや世界の大国に成長しつつある現実を受け容れる必要がある。例えば、日本はアジアとのFTA協定を推進する上で、中国のFTA戦略を念頭において、より積極的に国内の農業問題を克服して、先手を取っていかなければならない。


結論として、日本はアジア全体、ひいては世界全体にとってプラスとなる形で、アジアがまとまった地域になるように、外交、安全保障、経済、文化面でより説得力を持つような政策を打ち出していくことが望まれるのである。

(抄訳:宮尾尊弘)

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