GLOCOM Platform
debates Media Reviews Tech Reviews Special Topics Books & Journals
Newsletters
(Japanese)
Summary Page
(Japanese)
Search with Google
Home > Summary Page > 詳しい記事 BACK

東南アジアでのテロとの戦争

白石 隆 (京都大学教授)


オリジナルの英文:
"War on Terrorism in Southeast Asia"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030811_shiraishi_war/


要 旨


アジアでのイスラム主義の台頭

東南アジア、特にフィリピン、インドネシア、マレーシアは、2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、米国の「テロとの戦争」の戦場となっている。これらの国の政府は米国軍と協力して、アブ・サヤフやジャマア・イスラミアなどのグループを「テロとの戦争」の敵とみなして戦っている。これらのグループは、「イスラム原理主義」、あるいはより適切な表現として「イスラム主義」のイデオロギーを信奉して、イスラム法によって統治されるイスラム国家をテロの手段を使って実現しようとするものである。


しかしながら、東南アジアでは、米国と米国の「テロとの戦争」に対するスタンスは国ごとに異なっており、それぞれの国の政治的ダイナミズムによって左右されている。イスラム主義はどこでもイスラム復興の流れの中から出てきたものの、その影響力は各国で異なり、特にそれぞれの国の「国家建設」の成否に依存している。ここで「国家建設」とは、国家があたりまえの正義を保障し、国民生活を営む上で最低限必要とされる市民サービスを提供することによって、人々が国家を「我々国民の国家」であると受け入れるようになることである。


そういう「国家建設」がうまくいっていない国では、人々は「国民」に代わる国家、経済、社会編成の原理を求める傾向があり、イスラム主義はそうした原理を提供する。そのような国では、多くの国家的なプロジェクトが破綻しているので、その結果人々はその怒りを外に向け、特に「反米」のような形で他者を敵とすることで自己を確認しようとするのである。


東南アジア諸国間の相違

マレーシアでは、国家建設はこれまで順調に進んできた。マレーシアは人口の55.5%がマレー人、34.1%が華人、9.0%がインド系からなる典型的な複合国家である。その最も重要な政治命題は、異なった人種間の「民族平和」を維持するということであり、1945-46年のマレー人と華人の衝突や、1969年の「人種暴動」をなんとしても回避することである。マレーシア政府は与党のUMNO指導の下でこの課題の達成にそれなりに成功した。この30年、マレーシアでは一度も人種暴動が起こっておらず、その間に経済が発展し、多くのマレーシア人がその恩恵を享受したことは、これを如実に示すものである。


こうしたところでは、イスラム主義、とりわけ急進的イスラム原理主義集団の勢力拡大の余地はほとんどない。多くのマレーシア人はマレーシア国家の国民的正統性を受け入れており、選挙の政治のルールの下で自らの意思を表明する機会が与えられているからである。9月11日事件以降、マレーシア政府はイスラム主義の取り締まりに走ったが、それは反政府に転換することはなかった。むしろ政府自身が反米のスタンスを取ることによって、逆に政府に対する国民の支持を取り付けることができたのである。


しかし、フィリピンやインドネシアはこれとは違う。これらの国の「国家建設」は、マレーシアほどうまくいっていない。と同時に、フィリピンとインドネシアが抱えている問題もお互いに異なっている。フィリピンにおける「国家建設」の失敗は、南部フィリピンにおける政治経済秩序の崩壊、モロ地域における政治社会秩序編成の試みと失敗、イスラム主義勢力の登場といった現象として現れている。しかし、これはマニラの中央政府から見れば、あくまで地方的な問題である。このため政府は、9月11日事件を好機としてこの問題の処理に米国を引き込むことができた。


一方、インドネシアにおいては、スハルト体制崩壊以降、「国家建設」の失敗が様々な国家レベルの直接的な行動となって噴出し、反米的なテロとなった。イスラム主義はそうした中、国民国家に代わる新しい原理を提示し、イスラム教徒の間でその影響力を拡大しつつある。つまり、インドネシアではイスラム主義の拡大と反米の拡大は、ともに国家の正統性危機に根ざしていると言える。


日本への教訓

このように東南アジアでは、米国とテロとの戦争に対する各国のスタンスは国ごとに異なっている。これはこの地域の国々が、第二次大戦以降これまで米国との関係においてそれぞれ異なる機会と問題に直面してきたからであり、特に9月11日事件以降も同様のことが言えるからである。各国のスタンスは、それぞれの国の中の政治的ダイナミズムと密接に関連しあっている。したがって、日本としてはこのような複雑な現実をよく理解することが、9月11日事件以降の東南アジア諸国と、戦略的、政治的、経済的な関係を強める上で非常に重要となるであろう。

(抄訳:宮尾尊弘)

 サマリーページへ
 Top
TOP BACK HOME
Copyright © Japanese Institute of Global Communications