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「大転換点にある日本経済」

ロナルド・ドーア(ロンドン大学教授)


オリジナルの英文:
"Japan's Economy at a Major Turning Point"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200211_dore_japan/


要 旨


日本で最近2週間ほど過ごした感想として、小泉首相とその取り巻きが日本の問題を米国の目から見ていることに疑問を感じた。特に、「日本の失われた10年が日本政府の政策の誤りによって起こったので、それを小泉首相は改革を進めることで正そうとしているが、建設業界や流通業界の既得権と結びついて抵抗勢力が反対しているので改革の進み方が遅い」というのが西側メディアの報道の典型であるが、そのようなステレオタイプな見方を小泉首相自身が信じていることが問題である。


しかも最近はこの「改革」がもっぱら不良債権処理を意味するようになっており、それに関する竹中提案については、賛成論と反対論が出し尽くされた感がある。しかし、そのような議論の多くが銀行の不良債権処理の問題に集中しており、より重要な経済全体の低成長やデフレ不況の問題はどこかにいってしまった感があることは大きな問題といえる。


小泉・竹中チームの経済政策を応援しているのは、もっぱら米国ワシントンのレーガノミックスを信じる政策当局者で、特に竹中氏に近いグレン・ハバード経済諮問委員会委員長は日本に何度も来て竹中支援を鮮明にしており、それに東京在住の米系の銀行や証券会社のエコノミストが追随した意見を述べている。そこで、竹中金融担当大臣がもっぱら不良債権処理を問題にしているのは、日本の金融問題を解決しようというよりも、日本の銀行の米国での評判を高めようとしているからであるようにみえる。


実際には、銀行の貸し出しが伸びていないのは、借り手の企業がデフレと不況で苦しんでいるためであり、そのために銀行は貸付先がなく、米国債を買ってドルを押し上げるしかなくなる。このデフレ圧力が日本のアニマル・スピリットを侵食している事実を小泉政権は悟るべきである。


おそらく日本は大転換点にある。世界経済がインフレの時代からデフレの時代に移行している時に、日本の「楽観主義者」は、いまだにデフレの恐ろしさを悟らず、不況から比較的容易に抜け出せると思って、30兆円の新規国債発行枠にこだわっている。 まだ職がある人たちにとって、デフレはモノの値段が下がって好ましく映るかもしれない。日銀も財務省も真剣にはこの問題を扱っていない。しかし住宅を持っている人たちは、デフレによって住宅価格が下がる一方で、ローンの重みが増していくので一番被害を受けるであろう。


仮にインフレターゲット主義者の主張が採用されたとしても、実際にインフレを作り出すのは容易ではない。金利はゼロであり、財政出動もままならない状態である。例えば、現金や預金の価値を税などで減価させてマイナスの利子率にせよという提案すら出されている。しかし最も効果があるのは株価や地価を上げることであろう。特に、地価を上げることが最も資産効果を持つと思われる。もちろん長期的に地価を上げていくことは難しいかもしれないが、当面のデフレ傾向を反転させる最初のきっかけを作ることの効果は大きいと思われる。


このようなことが起こるためには、まず日本の政策当局者がデフレと不況が真の問題であり、銀行が利益を上げることよりも重要であると認めなければならない。おそらく日本の真の問題がデフレであることを世界が認めて初めて、日本も認めることになるのではないだろうか。

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