年金は負担に見合う給付を
跡田直澄 (慶應義塾大学教授)
オリジナルの英文:
"Pension Benefits Must Balance with Realistic Level of Contributions"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20031113_atoda_pension/
要 旨
少子高齢化を迎え、年金改革の議論が盛んになっている。なかでも、これまで日本の公的年金制度が社会保険方式で運営されてきたことについての見直しが提案されている。しかし現在行われている提案の多くは、保険料の上昇を抑制する一方、不足する分は財政で補填するというもので、これは即ちなんらかの税金を増やすことにより負担することであり、これでは国民負担のレベルは変わらない。従って、結局は給付面の改革を行わざるを得ない。
年金・医療・介護にかかる社会保険料率は、2002年で既に年収の22.78%、企業負担分を除き、本人負担分は11%を超えている。年収700万円の夫婦子供二人世帯の所得税と住民税を合わせた税金負担額が4.6%に過ぎないのを見ると、社会負担率の大きさが分かる。しかしこの水準があまり問題視されなかった背景には、ここ十年余りの間、税金の軽減が続き、社会保険と合計した総負担率があまり変わらなかったことが上げられる。
しかし、これまで景気対策で行われてきた減税は今後は困難になり、ましてや社会保障システムへの補填が税金から行われることになると、保険料・税金何れの形にせよ、負担が急激にかつ非常に高い水準に達してしまうことになる。こうなっては、日本経済の活力を維持できなくなってしまう。従って、どうしても給付面の見直しが必要となる。そしてそれには、全体としての給付総額を現実的な負担額に見合った水準に合わせる、という考え方が必要である。
ただし、元からの低所得者層には一定の配慮が必要であり、生活ができなくなるまで年金を減らしてはいけない。つまり、一律の給付削減は回避しなければならず、従って、高額受給者の既得権にメスを入れる必要が出てくる。しかし、実はこれを実行してこそ、構造改革の一環としての社会保障改革としての意義が出てくる。また、高収入がある高齢者には給付を制限することも、むしろ本来の社会保険としての機能を有効に果たすことになるという点を考慮すべきであろう。
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