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東アジア共同体構築に向けて日本は指導的役割を

猪口 孝 (東京大学教授)


オリジナルの英文:
"Japan Must Play Leading Role in Forming Asian Economic Community"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20031218_inoguchi_japan/


要 旨


日本の外交には従来から二つの路線がある。一つは、海洋路線ともいえるもので、地球的規模で自由貿易を軸とする路線、もう一つはいわば大陸路線で、隣接国との経済的つながりを軸とする路線である。日本は、大陸に近い島国であるため、海洋国路線をとりつつも、大陸国との近隣関係も維持しなければならない、という立場にある。


歴史的には、日本は60年代初期までの「反米か親米か」から高度経済成長期の「ただ乗り」路線へと変身、さらに70年代には、石油危機と中東戦争を経て「米国主導の国際経済システムの支持者」へと転回、冷戦終結後には「地球的市民国家」へとメークを施し、21世紀には平和や民主化を優先する「正義派市民国家」とでもいえる路線を展開中である。しかし、2001年9月11日の事件から、世界では軍事力が正面に出てきてしまった。


今回のイラク戦争では日本は海洋路線を濃密にした。つまり、米英連合支持を明白にし、大陸路線の仏独ロとの不一致をあらわにした。米国に反旗を翻して議論をしかけるより、米国主導の旗幟を振りつつ、「ふところに入ってこそ」影響力行使の可能性がでるという判断であった。だが米英連合に接近することによって、今までなかった種類のリスクを強く背負うことになった。


先ごろ、バンコクで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)会議では、従来は基本的に海洋派であった東南アジアの国々が、開放路線の中国に接近されることによって、大陸派であるかのような感じになった。既に東アジア経済協力会議の挫折とアジア通貨基金の頓挫という二度の失敗を経験した日本の大陸派は、その力を発揮できないという形で、ASEAN対策でも海洋路線に偏ってしまった。日本がASEAN提唱の友好平和憲章への賛同を決定したことは、この振り子を戻すものであり、今後も地域自由貿易協定や地域共通通貨協定などに取り組むべきである。


更に、共同体というからには、アイデンティティー、利益、思想、制度といったものがある程度の収れんをみなければならない。まず、アジア地域主義アイデンティティーを浸透させるための文化政策の共同歩調が各国政府に必要である。利益の面ではアジアの地域的結合は質的にも量的にも強まっているが、日本は積極果敢に自由貿易のイニシァチブをとるべきである。そして思想とは自由や民主主義、自由市場を指す。共同体の凝集力を弱めるような中国、北朝鮮、ミャンマーなどには、自らの規範や価値に真剣に立ち向かうべきことを説得すべきである。制度とはゲームのルールとでもいうべきものであるが、同じゲームをアジア諸国が楽しむようになったことは明らかである。


このような東アジア共同体の静かな高まりが頓挫しないように、日本には海洋路線と大陸路線の間の均衡に微妙な手綱さばきが求められる。そのためには日本がアジア担当国務大臣を、それも副首相格として置くことを提案したい。

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