コンテンツ政策の確立を ─ デジタル時代の新戦略
中村伊知哉 (スタンフォード大学日本センター研究所長)
オリジナルの英文:
"Policies on Contents Need to be Established -- A New Strategy for the 'Digital Era'"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040113_nakamura_policies/
要 旨
宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞を受賞し、村上隆氏は大モニュメントを築きニューヨーカーの目を奪ったことに端的に現れて居るように、日本のポップカルチャーが世界の視線を浴びているが、実は既に1990年代から、日本のアニメやゲームは世界の子供達を虜にしてきた。日本のイメージは、かつてのハラキリ、カミカゼという「闘う国家」から、トヨタ、ホンダ、ソニーなどグローバルに「闘う企業」になったが、いまや、ポケモンを初めとするマンガやアニメやビデオゲームといったポップカルチャーが日本の顔をなしている。
こうした動きは、デジタル化と歩調を合わせ、プロードバンドとケータイ・インターネットの普及により、その上を流通するコンテンツが関心を集めるようになった。産業界のみならず、政府でも、知財立国を標榜してコンテンツを戦略分野と位置づけている。しかし、コンテンツ産業がGDPに閉める割合は、日本2%に対し、米国5%、世界平均3%と、そもそも規模が小さく、また、海外市場の比重は、米国が17%であるのに対し、日本はわずか3%と圧倒的に低い。
他方、従来の産業ベースでは捉えられない、電子商取引、遠隔医療・教育など、非エンターテインメント分野が有望視されている。また、インディーズ音楽やマンガ同人誌など、アマチュアが作る映像・音楽分野が興隆している。さらに、個人がホームページやケータイメールなどによって、表現を流通させるようになっている。この結果、コンテンツの生産サイドでは、プロとアマチュアの垣根が崩壊しつつある。誰もがコンテンツの消費者だけでなく、生産者にもなる。
これに対し、従来日本にはコンテンツ制作と呼べるものはなかった。この理由は色々あるが、いまや、誰もが作品を安価に安心して創造しそして楽しめるようにするための国家意思を形成する必要がある。筆者も参画した総務省の「新しいコンテンツ政策を考える研究会」では、この観点から、中長期的な政策を打ち出すための報告をとりまとめた。また、民間での意見形成も重要であり、筆者が主査を務める「デジタルコンテンツ流通研究会」でも、創造権の確立、流通構造の改革、コンテンツの場の充実、コンテンツの教育の強化、利用者主権の保障、という五ヶ条の提言を行っている。単に短期的な産業振興という点にとらわれることなく、何百年にわたる文化の維持・発展という長期的視点からの国民的議論が望まれる。
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