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APECはボゴール宣言の目標を達成できるか

山澤逸平 (国際大学学長)


オリジナルの英文:
"Can APEC Achieve Its Bogor Goals?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040119_yamazawa_can/


要 旨


東アジアで地域主義への動きが最近加速しており、色々な二国間のFTAや、中国-ASEAN、日本-ASEANおよびASEAN+3(中国、日本、韓国)といった地域統合の概念が提案されている。これはアジアのダイナミズムを反映しており、金融危機の再来を避けることに役立つであろう。他方、東アジアあるいはASEAN+3は、金融危機以前に地域のエンジンであったより広域的な地域協力の概念であるAPECの一部である。このAPECはどうなったのか。APECからASEAN+3へのパラダイムのシフトが起こったのであろうか。APECはまだなくなっておらず、東アジアの着実な発展のために活用すべきである。


2003年のバンコクAPEC会議
APECは東アジアに加えて、太平洋を囲む豪州、北米、ロシアや中南米の一部を含む21の経済から成る。2003年にはタイの主催により、バンコクで10月18日〜23日に閣僚級会議が開催された。それでは「多様な世界:将来へのパートナーシップ」という共通テーマの下で様々な経済協力関係が検討され、貿易や投資の更なる自由化や国内改革の推進や金融システム強化のための経済的および技術的協力についての計画が発表された。それに加えて、テロ対策や安全保障問題も話し合われ、「健康と安全に関するAPECリーダー宣言」が提出された。このテロ対策や安全保障についてはAPECでは米国のイニシアチブの下で取り上げられてきたが、アジアのメンバー国はどちらかというと金融危機からの回復に焦点を当てた経済問題に興味を示してきた。


ボゴール宣言の野心的なコミットメント
APEC会議は1989年に始まったが、1993年〜1996年の間にその勢いが増していった。野心的なボゴール宣言は1994年にスハルト大統領によって提示されたが、それはAPECのリーダー達が、自由で開かれた貿易地域を2010年までに先進メンバーの間で達成し、2020年までに残りのメンバーについても達成することを約束したものであった。このアジア太平洋の協力関係に大きな可能性を開くようにみえた野心的な宣言はどこへ行ってしまったのか。


実は、APECは「同時的な一方的自由化」という実施の方式を採用している。つまり、APECの各メンバーは国内の法律の下で一方的に自由化計画を発表して、実施については他のメンバーと歩調を揃えて行うという方式をとっており、これがGATTやWTOでみられるような西側のアプローチと異なっている。しかし、APECは1997年に失速する。その前年に打ち出されたマニラ行動計画に基づく各メンバーの行動計画(IAP)は、ウルグァイ・ラウンドでの約束以上の成果をもたらさなかった。さらに金融危機も加わり、1997年〜98年にAPECの勢いがなくなり、国内の反対も高まり自由化への努力が減速することとなった。さらに1999年12月のシアトルでのWTO閣僚会議でも自由化の新世紀ラウンドを打ち上げられず、APECメンバーの間でも利害の対立によって具体的な提案で同意を得られなかった。


APECからASEAN+3へのパラダイムのシフト
ボゴール宣言から10年が経ち、2010年のデッドラインが近づいてきた。スハルト大統領も他のリーダーもすでにいなくなっている。かなり多くのアジアのメンバーはAPECを見捨ててASEAN+3あるいは地域内のグループ化の他の形を求めているようにみえる。しかし、そのようなAPECに対する悲観的な見方は、APECが出来ることを正しく把握していないことからくる失望によって、大きく影響を受けている。最近自由化の動きでAPECがあまり機能していないのは、APECが交渉の場ではないために、自由化の分野ではもともと成果が上がらないためである。アジアの専門家の中には、任意参加型のAPECの組織を相互に拘束し合う強制的な組織にすることを提案している。いずれにしても、APECはWTOの下で自由化を促進する役割を果たすことはできるであろう。


IAPのピアー・レビューの強化
APECの担当者は、まだボゴール宣言の目的に向けて進むという理想を放棄してはいない。APECの担当代表者会議は、各メンバーがボゴール宣言の目標に向かって前進することを奨励するために、1999年以来各メンバーの行動計画(IAP)のピアー・レビューを行なってきた。その後、2001年の上海APEC会議で、日本はこのピアー・レビューのプロセスを強化することを提案し、その結果、IAPレビューチームが結成された。そのチームは、ボゴール宣言の目標に向けて前進しているかどうかのレポートを準備して、代表者会議で議論することになった。そして2002年にはメキシコと日本のIAPがピアー・レビューにかけられ、APECの他のメンバーのIAPも次々とレビューされ、ボゴール宣言の目標への進展に関する中間報告が2005年になされる予定である。


民間のエコノミストも専門コンサルタントとしてこのピアー・レビューのプロセスに参加するよう要請されており、昨年私もオーストラリアのピアー・レビュー・チームに参加してレポートの作成に関わった。私の評価では、オーストラリアは積極的にボゴール宣言の目標達成に向けて努力してはいるが、独自の自然条件や連邦制度の維持という国内事情によりその動きは制約されており、外国の企業や投資家が参入するのが困難な場合があるといえる。


ピアー・レビューのレポートは、一般に発展途上のメンバーが調整に時間がかかることに理解を示し、段階的に自由化することを奨励する。結局のところAPECのIAPピアー・レビューは、WTOの貿易政策レビューのように決められたルールからの乖離をなくすことを要求するものとは異なり、各メンバーの自由化への努力を認め、独自の国内状況を考慮しており、早急な自由化を要求するものではない。ボゴール宣言の目標とその後の大阪行動アジェンダは、曖昧さや融通性が含まれていて、できるだけ多くのメンバーに努力を促すことが目的となっている。それがIAPピアー・レビューの基本的な目的であり、ボゴール宣言の目標はこの地域において自由でオープンな貿易を実現する上で役立つであろう。


貿易促進と共同のインフラ整備
税関の手続きやビジネス用ビザなどの分野で自由化を促進することでは、ボゴール宣言の目標達成の見通しは、参加メンバーが一緒に実施する共同行動計画(CAP)のおかげでかなり明るいと言える。CAPは参加メンバーに共通の目標を設定するもので、特に食品や電子機器についての標準を揃えることや、税関の手続を共通にして書類を少なくし、ビジネス旅行を促進するためのAPECビジネス旅券を発行すること等が行なわれている。いつくかのメンバーは、2006年までにビジネス交流コストを5パーセント下げることの利益を数量化するために、APECの貿易促進行動計画を実施しつつある。さらに、APECは人的資源の開発、知識ベース経済のためのインフラ整備、国内金融システムの強化、中小企業支援、環境保護、人的安全保障といったさまざまな経済的・技術的な協力を通じて発展途上のメンバーを支援することになっている。


東アジア地域統合を支援するAPEC
これらの貿易促進や経済的・技術的協力は、発展途上のメンバーだけで構成される地域協力グループ内では適切に提供されえない。これは明らかに先進的および発展途上の両方メンバーを含むAPECの強みである。ASEAN+3およびAPECに所属する主要メンバーはAPECと緊密な関係を保って、これらのAPECの強みを活用することが肝要である。APECの任意参加の形態を変えて、強制的な行動様式を導入することは難しい。しかしながらAPECの閣僚達は、協力策を率先して採用できるメンバーは実施し、まだ出来ないメンバーは後に実施できるような「進路探索イニシアティブ」の役割の重要性を認めている。そのようなイニシアティブはすでに、貿易とデジタル経済の政策、デジタル著作権イニシアティブおよび食料部門相互貿易促進策などの分野で始まっている。これらは先進的なメンバーでベストな策を確立し、他のメンバーがそれに参加するよう奨励するものである。このようなイニシアティブは、任意参加型APECをより有効な強制型APECに転換することに役立つであろう。

(抄訳:宮尾尊弘)

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