つまり、アジア・バロメーターは、できるだけ調査対象者に優しく、文化的に配慮するよう努力し、分析者に対して国際比較などの研究のためにより広い範囲と空間を提供するものである。
4.特徴的な質問群
普通の人々の日常生活 ― 普通の人々の日常生活を記録することが調査の中心に据えられる。それなしには、社会科学者を集めて人々の規範、価値、アイデンティティ、その社会との関係を研究してもあまりうまくいかず、政治的な行動や信条の研究も単に表面的なものになってしまうというのが、普通の人々の日常生活に焦点を当てることの背景にある考え方である。
人々の生活感と評価 ― 普通の人々が自分達の日常生活をどのように感じているかは、政府の政策や役割や制度への信頼などにとって非常な重要な意味を持っている。彼らが自分達の生活水準を豊かと思うか貧しいと思うか、日常生活でどれだけ幸せに感じているか、どれだけ満足しているか、ライフスタイルは何か、毎日の心配は何か、欲求や願望は何か、欠乏感や焦燥感は何か。これらの質問は普通の人々にとっても他の人々にとっても中核的な重要性を持つ。
人々の生活と社会との関係 ― 普通の人々がより大きな社会と関係しているかというのが、政治学者や社会学者がもっとも質問したがる項目である。しかながら、例えば個人の経済的な満足を政府への支持に関係させるだけでは十分ではない。少なくとも彼らの政府に対する信頼を、個人の経済満足と政府への支持を結びつける方程式に組み入れなければならない。ここでのポイントは、いかに彼らがより大きな社会と関係しているかである。
規範、信条、価値選好、行動 ― 規範、信条、価値選考、行動は、政治学者や社会学者が好んで使う項目であり、これらを検討する上で社会調査がもっとも便利な研究手段の一つである。かくしてこれらの項目に関しては数多くの調査研究が、民主政治の分析の枠内で行なわれてきた。これらの項目は民主的社会では質問することが非常に容易ではあるが、民主的でない社会ではそれほど容易でない。政府に対する信頼について質問することは多くの国では注意深く行なう必要がある。
5.経済発展、民主化、地域統合の可能性の測定
アジア・バロメーターでは人々の心や胸の中にある多くのことを聞くので、アジアの将来を考える上でもっとも適切なものであろう。このような調査をアジア各国で毎年行なえば、アジアの経済発展、民主化、地域統合の可能性を測ることができると私は信じる。ここでは今後50年間に、アジアでそのような三つの分野での可能性がどれほどあるかを考える。
アジアの経済発展は大きな将来がある。自律的な経済発展が根付いたのは、東アジアの沿岸部、東南アジア、および南アジアの一部のみであり、その成果が及んでいるのはアジアの総人口の一割程度に過ぎない。アジアの二つの大国である中国やインドが自律的で成熟した発展過程に到達するのは相当将来のことである。
アジアの民主化もまだ相当時間がかかる。非西欧民主主義国である日本とインドを除くと、東アジアの沿岸部のような民主化の流れに乗っている地域でさえも根本的な民主化はこれからである。東および東南アジアの内陸部や南アジアと中央アジアの大部分は民主化が起こるまでにまだまだ時間がかかる。
地域統合の可能性について調査で把握することはかなり難しい。アイデンティティに関する質問について、例えば東アジア人としてのアイデンティティといった一部の地域的な質問項目を含めるならば、そのような可能性についてより正確な把握ができるようになるであろう。
6.附記
2003年5月6日〜7日にアジア・バロメーターについてのシンポジウムを開催した後、2003年の夏にアジアの10ヶ国において最初のアジア・バロメーターの調査を行なった。その10ヶ国とは、日本、韓国、中国、ウズベキスタン、インド、スリランカ、タイ、マレーシア、ベトナムおよびミャンマーである。この最初の調査に基づいたアジア・バロメーター・シンポジウム・コンファレンスが2004年1月20日〜21日に開催された。この会議の結果は、国際大学GLOCOM情報発信プラットフォームにも間もなく掲載される予定である。
(抄訳:宮尾尊弘)