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住基ネット論争:政府には説明責任がある

〜学生ディベートで否定派が勝つのは情報の偏りが原因〜


山田 肇 (東洋大学経済学部教授、国際大学GLOCOM副所長)


オリジナルの英文:
"Public Accountability Required for Fair Debate"
http://www.glocom.org/debates/20040216_yamada_juki4/


要 旨


住基ネットの問題では、多くの疑問が寄せられているにもかかわらず、政府はそれにきちんと答えていない。安全性、利便性、経済性について同じ説明を繰り返すばかりである。 ここに大きな問題がある。政府が説明責任を自覚して、地に足のついた議論を行うこと。そのこと抜きでは、この問題はいつまでも解決しないだろう。

これが、私の主張である。本稿では、その考えに至った理由を説明しよう。 東洋大学経済学部の社会経済システム学科で、先日、一年生によるディベート大会が実施された。テーマは「住基ネット」の是非である。三組の対戦があり、そのうち二組では否定派が勝利した。その様子を観察して、興味深いことに気づいた。

学生によるディベートであるから、自ら考え抜いたことよりも、書籍、雑誌、インターネットで収集した情報の方が立論のバックデータになっている。ところが、肯定派にはよりどころにする情報が少ないのである。政府による、数少ない公式発表しか頼りにできるものがないのである。したがって、いずれの対戦でも、年金支給者の生存確認で43億円の経費が節減されるといった話が、持ち出された。

これに対して否定派には潤沢な論拠がある。アメリカや韓国の現状からはじまって、平均引越し回数や住民票の写しの平均発行回数、住基カードの発行経費など、数限りなく、立論の根拠を持っている。たとえば「日本人は、平均して20年に一回しか引越しをしないので、移転手続きが簡単化されるといっても、享受する機会は限られる」といった主張を、簡単に展開することができる。

これが、否定派勝利の原因であった。住基ネット問題が世間の関心を集めてから、すでに長い期間が過ぎている。それにもかかわらず、否定派が見出したようなさまざまな論点に対して、政府は正面から答えていなかった。むしろ、これは法律によって決定したことであるから、その通りに進めるとばかりに、懸念や疑問を無視し続けた。

行政は市民に代理して公的な業務を実施する機関であって、市民の上に立つ組織ではない。問答無用で政策を推進することなど、だれも期待していない。最近、説明責任という言葉が聞かれる機会が多いが、政府にも施策に関する説明責任がある。それを果たしていないことこそが、住基ネットの問題をデッドロックの状態に置いていることの原因である。


(この論文は、「住基ネット」のウェブサイトに掲載されたものです。
http://www.juki-net.jp/opinion/010/)

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