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国際通貨協議における日本の役割

行天豊雄 (国際通貨研究所理事長)


オリジナルの英文:
"Japan's Role in International Currency Negotiation"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040223_gyohten_japan/


要 旨


まず最初に強調したいのは、米国の経常収支の赤字が拡大しているために世界的な国際収支の不均衡が徐々に悪化しているという懸念である。これをいつまでも悪化させていいという状況ではなくなるのではないか。

もちろんそのような心配は今回が初めてではない。米国の国際収支の赤字や日本の黒字は、1960年代あたりからずっと続いており、この世界的な国際収支の不均衡は学問的かつエコノミスト的に話題になってきた。人によってはドル暴落論を唱え、世界の金融市場が大混乱に陥ると主張したが、結局そのようなことは起こらなかった。したがって、少なくとも米国人の間では、今回の米国の赤字についてもドル安についても、まったくといっていいほど危機感がない。


違った段階への展開
しかし私は最近の情勢は今までと少し違った段階に入ったのではないかと思う。その第1の理由は、米国の消費主導型の経済成長のパターンが顕著になってきたことがある。特に90年代後半以降。家計や政府の消費に依存したパターンが出来上がると変えるのが難しくなり、その結果として97年から2002年まで、ここ5年ほどの経常収支の赤字の増え方が4倍以上になっており、これまでと違うことが感じられる。

第2には産業構造の中に原因が生じてきている。つまり経済がサービス化して「ものづくり」をしていない。特に家計の消費の対象になるようなものを作らなくなった。したがってドル安になり輸入品価格が上がっても、国産品で代替するプロセスが今までのように起こらなくなってきた。また輸出についてもモノの輸出力はかなり落ちているので、米国の産業構造全体が赤字の縮小を難しくするようになっているのではないかと思う。

さらに資本収支の面では、これまでは米国において景気がよく活力に溢れて、期待投資収益率が高かったので、海外から大量の資本が米国へ流入した。例えばM&Aという形で特に欧州からの資本が流入し、また日本も含めて世界中の企業が米国に直接投資を行い、また米国の株式や国債に対する投資も多かった。しかし、米国の財政赤字が維持可能かどうかという懸念が高まっており、テロの危険の要因もあり、これまでのように米国における期待収益率が高いという確信が揺らいできたために、安定的な資本流入が細ってきている。それに加えてユーロという存在がドルの代替物としての感じが若干高まってきたのかもしれない。


慢性的な市場の不安定性
その結果として絶えずドル安、その反対側としてのユーロ高や円高の問題がマーケットに残って、乱高下を引き起こすという国際金融市場の不安定要因が前よりもかなり大きくなっている。これでいいのかという問題がある。それを当面防いでいるのが日本のドル買い介入のような公的な支えであり、それがいつまで続くのかが問題である。もし日本が介入を外せば、ドルは少なくとも一時的には大きく下がることが予想される。

これを日本が一時的なことと放っておければいいが、日本の産業構造は製造業中心で輸出主導型になっており、そこに大企業が集中しているためにそのような企業の声が大きく反映されて、急激な円高を問題にするであろう。その声がメディアを通じて増幅されて、心理的に投資や消費を冷え込ませ、株も下落する可能性がある。したがって、日本は介入を続けざるをえないが、しかしいつまでも続けるわけにはいかないとも皆感じていることは確かであろう。

もし米国の経常収支の問題がこれまでと違った深刻な段階に入ってきているという見方が正しいならば、いつかは市場がこの状況に警告を発して、ドル投資の手控えや、ユーロへのシフトなどが起こり、ドルが暴落する危険がある。もちろんドル暴落を望んでいる者は誰もいないが、自分だけがドルを早く売り抜けようとする行動に皆が走ればそこで市場の反乱が起こる可能性が高まる。いずれにしても10年前と比べて事態がより不健全かつ不安定になったと思う。


新しい東アジア通貨の要因
その中で今までになかったのは、中国の人民元を始めとする東アジアの通貨の問題である。かつての通貨問題では東アジアの通貨はまったく存在しなかった。ところが今はその存在感が高まっており、米国の赤字の半分は対東アジアである。しかもその中核である中国の通貨はドルにペッグしているので、いかにドルが安くなっても米国の中国からの輸入は減らない。いずれにしても中国の元、韓国のウォン、台湾のドルなどの問題を無視することはできなくなっている。

したがって、国際的な通貨交渉にかつてのG7だけではなく、少なくても中国や韓国を入れざるを得ず、また日本の立場からしても中国や韓国と一蓮托生になっているので国際交渉に参加してもらわなければならない。その意味でこの問題については、日本が中国や韓国を国際交渉の場に引き入れる仲介役としての責任が非常に重いといえる。その上で、欧米とうまく交渉しないと、かつて欧米が一致して日本を非難したように、東アジアが黒字を出している点が批判されて、通貨の切り上げ策やインフレ政策を一方的に要求されるようになる危険がある。

日本としてはここで何とか国際的な合意を形成して、通貨の再調整をやらなければ、徐々に国際金融市場における不安定性が高まってくるという危険性があり、それでは何かやる場合には、東アジアとしての対応を考えておかなければならない。ただし国際的な交渉は機が熟さないと皆腰を上げない。現在は米国側に危機感がないので、これから5年くらい先を見据えて国際的な会議の準備を行なう必要があるであろう。


国際通貨協議の目標
そのような国際的な会議の目標は何か。まず第一に、為替相場と制度について何をするか。ドルや円へのペッグ制度をやめて、皆が一般の変動相場制へ移行するが、その一方である程度の範囲内で為替相場が動くというような仕組みを作る必要がある。問題は乱高下を防ぐということである。例えば、円は100円を中心として上下10%の幅を持って変動することを許し、そこから外れそうになれば日米が協調して介入するという体制が作れるかどうか。そうすれば、ある程度の安定性と予見可能性をもたらし、貿易や投資をやり易くするであろう。そのような相場の範囲が何かを決めるのが会議の目標の一つである。

第二は米国に頼らずに世界経済を発展させるために何をなすべきかを議論することである。一番の問題である米国の貿易赤字の削減に対して、それ以外の国が輸出を減らしていかなければならず、日本のような輸出主導の国は転換を迫られている。つまり内需拡大が必要ということである。ここまで拡大した国際的な不均衡を是正することは、非常に大きなデフレ効果を伴うので、黒字国が余程のデフレ対策を行なって黒字を減らさなければうまくいかない。

日本の場合には何よりも内需拡大が必要であり、規制緩和を徹底させて、あらゆるビジネスチャンスが実現できるような環境にしなければならない。それはある意味で米国に近いような開かれた合理的な市場を全分野に広げるということである。規制緩和をすれば内外価格差が縮まってくる。現在円高について抵抗が強いのは、内外価格差が大きいからで、それがなくなれば円高によって輸入品価格が下がってプラスが実感できるようになるであろう。

いずれにしても、安定的な為替相場体制をつくるということと、米国の赤字を減らしながら世界経済全体としての成長を維持するという2つの目標を達成することが必要である。それには5年以上の準備が必要となるが、日本は今からそれに向けて努力を始めなければならない。


(本稿は2004年2月4日に行なわれた行天豊雄氏とのインタビューをもとにまとめられたものである)

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