「銀行国有化とともに減税とインフレ目標を」
伊藤隆敏(東京大学教授)
オリジナルの英文:
"Nationalization of Banks with Tax Cuts and Inflation Targeting"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200212_ito_nationalization/
要 旨
総合デフレ対策の評価
総合デフレ対策が目指したことに、3つの側面がある。第1に銀行の不良債権処理を加速させること、第2に経済の実物面の収縮を止めて成長軌道に乗せること、第3に物価の下落(デフレ)を止めることである。3つは密接に関連している。
第1の点については、不良債権処理についての新たな方針が示されたとは思えない。査定の厳格化、金融庁と銀行査定の差異の公表、さらにDCF方式による企業価値の計算などが、不良債権処理を加速させるとは到底思えない。特にDCFの場合に割引率が重要で、割引率がゼロならばDCFは無限大となってしまう。唯一の進展は、産業再生機構の創設だが、これも実効性のないものになる可能性が大きい。
第2の点については、140%を超える政府債務・GDP比率のもとでの更なる財政出動が景気拡大効果をもつとは思えない。民間投資の誘発のため投資減税が提案されているが、規模はおそらく大したものにはならないだろう。第3の点については、日本銀行による長期債買い切り月額の2000億円追加では、効果はない。まとめると、ほとんど評価できない。
銀行部門のリストラを
経済低迷の原因は、第1にバブル経済破裂に伴う不良債権処理に手間取るうちに、経済がデフレスパイラスに陥ったこと、第2に1995年の金融危機の始まりのところで、思い切った破綻処理をしなかったことである。今やるべきことを、総合デフレ対策が目指した3つの側面から挙げると以下のようになる。
第1の不良債権処理の側面では、長期的な税金負担を最小化するという観点の再確認が大切であり、そのために資本不足の銀行の国有化は不可避である。国有化された銀行は、資産の正常債権と灰色債権(産業再生機構へ)と不良債権(整理回収機構へ)の分離を行い、正常債権の売却により銀行セクターの再編を行う。一方、産業再生機構は、長期停滞セクターの再編を行う。灰色債権、不良債権を、銀行には二次損失を負担させずに買い取ることが必要である。
第2の側面では、住宅関連税制の抜本的な改正による住宅投資、住宅関連消費の振興を図る。しかし、財政赤字をこれ以上増やすことは危険なので、減税分を公共事業のカットなど歳出減少で相殺すべきだ。
第3の側面では、日銀のインフレ目標の採用と、そのためにはあらゆる手段をとることを明言し、実行することが必要である。日銀よる金融手段としてのETFの購入なども効果がある。
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