人民元切り上げは中国自身にプラス
関 志雄 (経済産業研究所上席研究員)
オリジナルの英文:
"A Stronger Yuan Should Benefit not Japan but China Itself"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030825_kwan_stronger/
要 旨
諸外国から人民元の切り上げを求める声が高まっている。中国の対外収支の大幅黒字とその結果としての外貨準備の増加が顕著であることに加え、廉価な中国製品が世界的デフレを惹起する元凶とみなされているからである。しかしながら、日本にとってみれば、競争的というよりは補完的な経済関係にある中国の人民元切り上げは、マイナスの影響が大きい。
人民元は建前としては管理変動制を採用していることになっているが、実態はドルにペッグされている。従って、それぞれの通貨に対する需給の変化は相場の変動によって調整されるのではなく、外貨準備の増減でおこなわれ、その結果として国内貨幣供給量が影響を受ける構造となっている。
中国にとって、外貨準備の増加が意味するところは、せっかくの資金を国内開発に向けることなく、米国債などの低い運用に放置することである。また、国内流動性の増加は、不動産価格の高騰などによりバブルを増長している。更に、米日との間で激化するおそれがある貿易摩擦を考慮すれば、人民元の切り上げは、中国自身にとって得策となろう。
これに対し、日本にとって人民元の切り上げは、むしろマイナスの影響が大きいと考えられる。一つは「所得効果」によるもので、中国経済が減速することにより市場が縮小し、日本から中国への輸出が減少することになる。もう一つは「価格効果」であり、切り上げにより中国からの輸入品の価格が上がることになるが、この場合、日本国内では一部比較優位をもたない労働集約型産業が恩恵を受けるのに対し、中国と補完分業関係にある多くの業種は利潤と産出が低下することになる。
こうして、人民元の切り上げは、日本にとっては消費・生産両面から必ずしも好ましくないのに対し、むしろ中国自身にとってはメリットがあると考えられる。
(抄訳:浦部仁志)
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